東京高等裁判所 昭和48年(行ケ)28号 判決
一、原告は、引用例の帯状体がフオーム中央部の発泡線に沿つて張設されており、帯状体の上下端部がフオーム形成材の発泡中移動方向に対する相対速度が変ることがないと主張しているので、成立に争いない甲第一号証(本件特許公報)、同第三号証(引用例)によつて、そのあげる根拠にしたがつて検討する。
(一)、引用例が正しい方形断面の気泡体を得る目的達成の手段としてあげる実施例の一つとして帯状体を使用する技術手段をとる場合、本件特許発明の溝型連続容器にあたる成形スペースの内部両側壁で気泡体の発泡開始点から発泡完了点までの間に帯状体を張設すること、そしてこの帯状体は前進する運搬槽の垂直側壁の両内側に配置されたスケート状形の案内板により導かれていることが認められ、この点は原告も主張の前提とするところである。
ところで原告は引用例では集体が発泡し始める地域で発泡材質の表面での上昇運動に従うとの説明があるところから、案内板の上向き角度も当然気泡体の発泡上昇曲線になぞらえているものであると主張する。しかしながら、引用例の発明の詳細な説明には「上記集体が発泡し始める地域すなわち案内板の下へりが上方に傾折しはじめる地域ではストリツプ9は案内板の上昇する下へりと、発泡材質の表面での上昇運動に従う。」とあるから、帯状体の運動は「案内板の上昇する下へり」と「発泡材質の表面での上昇運動」との二つの条件に従うことが示されている。しかも「案内板の下へり」は「下記運搬槽内で発泡が開始する地域で」「運搬槽の底から鋭く上方に曲折する」との説明があり、一方「材質の高さが鎖線で示されている。」と説明されていて、本実施例を示す第一図によると、案内板の下へりはスケート状、すなわち最初は上向き角度が小さいが、先端に行くに従つて上向き角度が大きくなる弧状の形状をなしている。一方、前記鎖線はフオーム中央部の発泡線を示すものとみられるが、これは最初上昇の割合すなわち上向き角度が大で発泡完了点に近ずくに従つて小さくなつていることが認められる。したがつて、案内板の下へりが有する弧状の曲線とフオーム中央部の発泡線、すなわち気泡体の発泡上昇曲線とはともに上向きではあるが、異つた傾向を示している。そして、この相違に基ずき発泡中の柔かいフオームの表面はその動きが帯状体の動きと一致しないためにゆがみが与えられ、亀裂の危険を生ずるおそれがあるものと認められる。それ故、両曲線は近似しているとの原告の主張は採用できない。
(二)、引用例のクレーム2として「材料が連続して水平方向に運ばれる間、自由な発泡が起る地域におけるスペースの垂直制限面の各々の少なくとも一部が、その平面内で別々の作動装置によつて速度の水平および垂直成分を受けるように、すなわち該水平成分は水平運搬速度にほぼ同じとし、かつ垂直成分は発泡集体の表面が上昇する垂直速度とほぼ同じか、又はより大きくさせるように動かされて材料を中空の成形型又は他の成形スペースで発泡集体に発泡させる方法」との記載があり、この「スペースの垂直制限面の各々の少なくとも一部」とは、一実施態様としては案内体であり、また図示の一実施例第一図では帯状体9であることが認められる。ところで、帯状体は実施例においてはじめて示されたものであつて、その動作については一般的な説明はなく、第一図の装置に関して説明されているだけである。そしてこの帯状体を使用する実施例を示す第一図についてストリツプ(帯状体)の運動をみると、ストリツプがスケート状形をしている案内板の下へりに沿つて上昇するから、その速度の垂直成分ははじめ小さく、後に大きく、またその水平成分は上向き角度が大きくなるのに比例して小さくなり、水平運搬速度と比べるとそれよりも徐々に小さくなるものとみられる。一方、発泡集体の表面での運動、いいかえればフオームの発泡線は前項認定のように鎖線で示され、これによれば発泡集体の表面の上昇速度ははじめ大きく、後に小さく、またその水平速度は水平運搬速度そのものである。そうすれば、引用例における帯状体の運動は、その速度の垂直成分および水平成分がともに発泡集体の表面の運動におけるそれらとかなり異なるので、発泡集体の表面の運動とは相違し、つまりはフオームの発泡線とくい違うものといわざるを得ない。
したがつて、第一図の装置はクレーム2の実施例にあたるとしても、そこで使用されている帯状体はクレーム2の垂直制限面の各々の一部の一例を示したものに過ぎず、その運動は前記認定のとおりであるから、クレーム2の実施態様から帯状体が予めフオームの発泡線に沿つて張設されているとする原告の主張は採用できない。
なお引用例が本件特許発明と目的を同じにするところから、第一図を原告の主張に沿うよう図示されたものとする主張は、以上の認定から採用に値いしないことが明らかである。
(三)、本件特許発明の細帯体は、添付図面によつてもフオーム表面に接して幅の狭いものと認められる。一方、引用例の帯状体は、実施例として図示する第一図によれば、案内板の高さとほぼ同じ位の幅広いものである。ところで、引用例の発明の詳細な説明には実施例として帯状体をふくむ案内体の幅に関連して、「発泡材質が接触するほぼ垂直な制限面の各々の全体がともに、かつ上方に動くことは、かならずしも必要ではない。発泡形成集体の平坦な上表面を得るには、発泡集体のメニスカス(表面)のある垂直制限面のその部分のみが、ともにかつ上方に動くだけで十分である。」とあるから、帯状体の幅は最少限発泡集体のメニスカスに接する部分だけの幅があればよいと考えられる。そして、その必要な幅は帯状体と発泡集体の各運動により定まるところであり、前記認定のように引用例では帯状体が発泡線に沿つて張設されていないため発泡集体の表面の変化に対応するだけの幅が必要である。これに対し本件特許発明における細帯体は、帯状をなしている点で引用例の帯状体と共通しているが、発泡線に沿つて発泡中の気泡体を積極的に引き上げるだけの幅があればよいから、両者が技術的に同一ということはできない。
二、そうすると、引用例の帯状体が本件特許発明の細帯体と構成・効果を同じくするとして原告の主張する根拠は、いずれも採用できないから、審決には原告の主張するような違法のかどはない。
よつて原告の請求は失当として棄却する。